黒水晶
イサが執務室を抜け自室に戻ると、突然、目の前にフェルトが現れた。
フェルトは嬉しそうな顔でイサに近づき、
「イサ。久しぶりですね。
“ただの王子様”でしかなかったあなたが、あのヴォルグレイト国王に盾突くとは、大変、成長したものですね。
嬉しい限りです」
イサはわなわなしながら青ざめ、
「お前、どうやってここに侵入した!!
門番の許可は得ていないだろ!」
「ヴォルグレイトさんに見つからないように、魔術を使って偵察しているのですよ。
隠密(おんみつ)行動ってやつですね。
城の方達に見つかってはかなりマズいので」
フェルトならどんな手を使ってでも侵入することは可能だろうと、イサは妙に納得しつつため息をついた。
「まあいい……。
お前、俺と父さんの会話を聞いてたのか?
だとしたらどうやって……?」
フェルトは得意げにヒラリと右手をスイングさせ、
「私の魔術をもってすれば、不可能なことなど無いに等しいですから」
「ヘラヘラしてないで、真面目にこたえろっ」
イサはフェルトに詰め寄った。
フェルトは両手を軽く頭上にあげて、
「まぁまぁ。
そんなカッカしないで、イサりん」
「イサりんってなんだ!!」
「あなたのあだ名です。
今、決めました」
「勝手に決めるなっ。
そんな恥ずかしいあだ名、俺は認めない!」
それまで冗談を言っていたのがウソのように、フェルトは笑顔を消して、鋭い表情でイサを見つめた。
その気迫に、イサも口をつぐむ。
心臓が嫌な音をたてた。
「あなたのお父様は……。
ヴォルグレイト国王は……。
重罪を犯そうとしています。
いや、すでに、過去に同等の罪を犯したと言ってもいいでしょう」
「は…………?」
イサの頭は真っ白になる。