黒水晶
次の瞬間、フェルトはおどけてみせた。
「なーんてねっ!!
驚きましたか??」
イサは額に冷や汗を流し、
「……今の話は、本当なのか?」
「さぁ、どうでしょう?
私はガーデット帝国とはつながりのない、外部の人間ですから。
あなたはあなたの目で、確かな情報をつかんだ方がいいのではないでしょうか。
私がウソをついている可能性だってあるのですよ?」
イサはギリリと歯を噛み締め、
「……フェルト。前に、こう言ったよな?
俺は、国に従う犬でしかないって。
もっと賢く立ち回れって。
それについて考えてみたけど、今でも全然わからないんだ……。
俺がバカなのは認める。ローアックスにも同じようなことを言われたから……」
涼しげな顔をしつつも、フェルトは真面目にイサの言葉に耳を傾けた。
「俺は今まで、国のために、国民のために、生きてきた。
次期王位を継ぐ覚悟も出来てる。
でも、みんなが何かを隠してる……。
それだけはわかるんだ。
父さん…ヴォルグレイト国王は元から強引な人で、人の意見に耳を貸さないところはあったけど、俺がここに戻って来てからの父さんは、やっぱりおかしい。
以前にも増して、表情がこわいんだ……」
「イサ。やっと、気がついたのですね。
自分の力で、自国の異変を……」
「フェルト……。お前は何か知ってるんだろ?
俺も知らないこの国の歴史を…!
父さんが…ヴォルグレイト国王が何を企(たくら)んでいるのかを…!!
……お願いだ。
無知な俺に、知っていることを全て教えてくれ」
イサは土下座した。
王子という立場など、もう、関係ない。
一人の人間として、彼は今、フェルトに懇願(こんがん)していた。
自分の知らない何か。
……それが何なのかを知りたい。
そして、カーティスが城を捨ててマイ達と逃げるよう指示してきた理由も……。