黒水晶
それから数週間。
マイとイサが会話を交わさない日々は変わらず続いており、最近ではそれが当たり前となりつつあった。
マイが話す相手といえば、テグレンとガーデット城の執事のみ。
執事との会話は用件だけ伝達しあう、そっけないものだった。
食事の時間になら、イサやエーテルと会える。
マイは内心そう期待していたのだが、食事の時間をずらされているのか、二人と顔を合わせることはなかった……。
マイの寂しさは、日毎(ひごと)に募っていく。
自分がここへ連れて来られた理由も分からないし、唯一の友人であるイサやエーテルにも会えない。
「はぁ……。あの家に戻りたいなぁ」
丘の家を思い出し、マイはため息をついた。
かつての生活が恋しくなってくる。
“そーだ! 気分転換のために、木の実を取りに行こっと!
ずっと室内に閉じこもってるから、こうやって暗い気持ちになるんだろうし”
得意の魔法薬を作って、この鬱々(うつうつ)した気持ちを晴らそうと思い立ったのだ。
ついでに、誰にも見つからない場所で魔法の練習をしよう!
マイは決めた。
「夜まで部屋で眠るよ」
執事とテグレンにそんなウソをつくと、誰にも見つからないよう、マイはこっそり外出することにした。
状況的に、今の彼女は、自由にガーデット城の外へ出ることができない。
魔法の杖を手に、マイは心の中で願った。
“私を、木の実のたくさんある広い場所に連れていって下さい!”
すると、杖は淡くて丸い桃色の光を放ち、マイを柔らかく包んだ。
それと同時に、マイの滞在している客室からは、彼女の姿が消える。
マイは、己の魔法を使って、望む場所へと空間転移したのだ。