黒水晶
木の実を取るため、マイは、ある場所へ移動した。
ガーデット帝国とルーンティア共和国の境目にある森――。
鮮やかな緑が印象的なこの森にはたくさんの木の実がなっていて、どれも爽やかな甘い香りを漂わせている。
“こんなにあれば、魔法薬がたくさん作れるよ”
マイは思わず笑みをもらした。
ガーデット城に常勤している兵士達の傷の治癒に必要な塗り薬や、執事達の疲労回復ができるサプリメントを作りたい。
みんなの喜ぶ顔を想像しつつ、マイは魔法で木の実を落とした。
ある程度たまったら、魔法を使い、ごっそり集まった木の実をガーデット城の自分の客室に転移させた。
自分の体だけでなく、マイの魔法は、物質を別の場所に移動させることも可能なのだ。
マイは、ふと、イサとエーテルの顔を思い出す。
“あの二人は、私を守るために、ずっと護衛してくれたもんね……。
今はあまり会えないけど、陰ながらでもいい。
二人の役に立ちたいな”
不思議だ。
イサのことを思い出すと、マイの心臓の音は激しくなり、頬が熱くなるのだから。
“なんだろ? この感じ。
エーテルのことを思い出すと安心するし、イサのことを思い出しても、同じように安心するのに。
イサへの気持ちは、エーテルに対しての気持ちとは、ちょっと違うみたい……”
なぜ、こんな気持ちになるのだろう?
イサのことを考えている自分が恥ずかしくなり、マイは左右に激しく首を振った。
“そんなことより、木の実集めに集中しないとっ”
どれだけ作る気なのだろう。
マイはせっせと、木の実を収穫し続けた。