黒水晶
「イサ。リンネ。ごめんね……」
エーテルはつぶやく。
“私は、ルミフォンドをヴォルグレイト様の陰謀から必ず守ってみせる。
イサ。大切な女の子を奪って、ごめんね……。
リンネ……。
唯一生き残った家族と離れ離れにさせてしまうけど、少しの我慢だから、許してね……”
エーテルは、ルミフォンドを逃がした後、リンネのこともこの城から連れ出し、ルミフォンドと同じ場所に連れていくつもりだった。
はたして、そんなにうまくいくのだろうか……?
計画を描き、エーテルは部屋の扉を開けた。
今までにない、激しい緊張をともなう瞬間だった。
久しぶりに訪ねてきた姉的存在のエーテルを見て、三人の子供には嬉しそうな笑みが咲いた。
イサはだいぶ元気になっている。
ルミフォンドとリンネは、まるで母親にそうするかのようにエーテルに抱きつき、甘えた。
両親を一度に亡くしたリンネとルミフォンドにとって、優しいエーテルの存在は、本当の姉のように感じられた。
そんなふうに自分を慕ってくれる三人を見て、エーテルは涙をこらえた。
油断すると、泣いてしまいそうになる……。
心の中で罪悪感と戦いながら、エーテルはイサとリンネを別室に移動させることに成功した。
部屋の中、一人になったルミフォンドを抱き上げ、エーテルは普段使わない高等魔術を使い、ガーデット帝国から遠く離れた土地へ瞬間移動した。
オリオン街という小さな街。
その上部に位置する、緩やかな丘の上……。
視界には青々とした草原が広がり、他に邪魔をする物は何もない。
草をくぐった爽やかな風が全身を包むように流れ、雲ひとつないきれいな青空が広がっていた。