黒水晶
エーテルは、ルミフォンドのために、家屋をひとつ用意した。
かなりの労力を消耗したが、エーテルの魔術で作り出した家。
丘の上に、木のぬくもりを感じられる一軒の平屋建てだった。
必要最低限の家具も、魔術で生み出した。
「ルミフォンド。
ここが、これからあなたの住む場所になるの」
エーテルはそう言うと涙を流し、ルミフォンドを強く抱きしめた。
「エーテル、泣いてるの……?」
ルミフォンドは、小さな両手でエーテルの背中をなでる。
“ヴォルグレイト様が気付く前に、早く……。
時間がない――”
「エーテル、どうしたの?
大丈夫……?」
エーテルは何も答えず、ルミフォンドの体を離し、彼女の小さな頭に両手を乗せた。
「この子に、仮の名を与えます。
ルミフォンドの記憶から、
アスタリウス王国のこと、
両親が亡くなったこと、
イサのこと、
私のことを、
消しさりたまえ……」
エーテルの手のひらから、紫色の淡い光が放たれた。
それは次第に、ルミフォンドの体を包み込んでいく。
ルミフォンドは瞳を閉じ、眠りについた。
横たわったルミフォンドを抱きあげると、エーテルは、家屋の中のベッドに彼女を寝かせた。
安らかな顔を見て、
「ルミフォンド……。
さようなら……。
あなたは、魔法使いとして、新しい人生を歩んでね。
何にも縛られず、自由に。
ガーデット帝国の…ヴォルグレイト様の好きにはさせないから……!
遠くから、あなたの幸せを願ってる」