黒水晶

回想中も、闇に染まった自分に気がつかないヴォルグレイト。

考え事はほどほどにして、デスクにつき、書類と向き合った。

どんな時も、仕事は怠(おこた)れない。

先代から受け継いだガーデット帝国を、この城を、無事イサに渡すその日までは……。


集中しようとしたその時、一人の家臣が、慌ただしく執務室の扉を開けた。

ヴォルグレイトはノックもせず入ってきた家臣を軽く睨みつけ、

「何事だ。騒々しい」

「大変失礼いたしました……!」

家臣は、口先だけに聞こえる謝辞を述べ、青い顔で言葉を継いだ。

「カーティス様が……!

カーティス様が、何者かの手によって殺害されました!!」

「なんだと……!?」

ヴォルグレイトは、手にしていた万年筆をインクごと床に落としてしまった。

家臣はヴォルグレイトに近付き、

「さきほど、剣術道場周辺の見回りをしていた兵士が発見しました。

倒れていたカーティス様を医務室に運び、救命しようとしたそうですが、手遅れだったと……。

発見された時、カーティス様は息をしていなかったそうです。


皆、葬儀の準備を整えながら、犯人を調査中です。

ヴォルグレイト様も、どうか至急、謁見の間へ!!」

床にこぼれて広がった黒いインクをそのままに、ヴォルグレイトは家臣の後を追って謁見の間へ向かった。

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