黒水晶
「あの男……。
前から怪しい人間だと思ってたが、まさか魔術師とはね」
テグレンはフェルトのいた空間を見つめ、険しい顔をする。
「エーテル! 気が付いたんだな、よかった……。大丈夫か!?」
イサは、うっすら瞳を開けたエーテルを抱きかかえた。
マイとテグレンもそちらに駆け寄る。
「大丈夫……。
それより、私はなぜ無傷なの?
あんな攻撃を受けたのに……」
「フェルトが助けてくれたんだ。
ローアックスの気配を感じ取ったらしくて、いきなり現れた」
「そう、あの人が……」
エーテルは頬を緩める。
「エーテルもフェルトさんのこと知ってるの?」
マイは目を丸くした。
「はじめてあなたをあの丘まで迎えに行った日の夜に、出会ったの」
エーテルはそう説明した。
「フェルト……。悪いヤツではないのかもしれないけど、警戒はした方がいいな。
それより、あのローアックスは何者なんだ?
エーテルの術を、ああも簡単にかわすなんて……。いまだに信じられない」
イサは思案顔になる。
エーテルは、ついさきほどの出来事を思い出しながらつぶやいた。
「フェルトさんとローアックスのオーラが、かすかではあるけど、まだ残ってる。
彼らは二人とも私と同じ魔術師だけれど、私のオーラとは違う色と方向性があるみたい」
「エーテルの魔術を吹き飛ばすなんて……」
マイは震えた。
「でも、マイの魔法は効いていたじゃないか。
フェルトはともかく、あのローアックスという男、魔法が苦手そうだったよ」
テグレンは自分のことを話すように得意げに言う。
イサもそれにうなづき、
「たしかに。情けない話だけど、マイの魔法がなかったら、俺の剣術でもローアックスをあそこまで追い込めなかった」
「エーテル、これを飲んで? リラックスできる薬よ」
マイは優しい葉っぱ色をした飲み薬をエーテルに渡した。
エーテルはそれを口にし、
「マイ、ありがとう」
「いいよ、お礼なんて」
「……私、嬉しかった。
ローアックスの言葉を聞いても、あなたが私を信じるって言ってくれて」
エーテルは目をうるませる。
「それは俺も同感だ」
イサは言った。