黒水晶

意識を失っている最中、イサは夢を見た。

真っ暗闇の中。

たった一人でさ迷い歩く、自分の姿を……。


周囲には誰もいない。

ピンチの時に駆け付けてくれたレイルとフェルト。

さきほどまで談笑していた自然の神たち。

テグレンやリンネ。

黒幕だった元トルコ国の王子·ディレットの姿もない。


『この世界は、どうして存在しているの?

残る価値の無いものばかりじゃない……』

決して忘れることのない少女の声が、真っ暗な空間に冷たく反響した。

『マイ!? そこにいるのか……!?』

『イサ。私はもう、ただの魔法使いには戻れない。

ガーデット帝国の人間が憎いの。

お父さんとお母さんの命を奪った剣術師一族を許せない。

唯一生き残ってくれた妹……リンネと私を引き離した人間を、滅ぼしたい。

魔法使いを利用しようとする人間全員、いなくなってほしい』

『マイ、聞いてくれ!

たしかに、人間には悪いヤツもいっぱいいる。

でも俺は、マイを……魔法使いを利用したりしない!

争いのない世界を、作ってみせるから!

ううん。マイと一緒に、そういう平和な国を作りたいんだ!

俺達二人なら、何だってできると思うんだ……!』

イサは心の中で強く思った。

“今さら何をしても、取り返しがつかないんだってことは分かってる。

でも、黙ってやり過ごすなんてできない。

父さんが今までしてきたこと、俺の出来る全てのことで償うから。

だから、お願いだよ!!

マイ。意識を取り戻してくれ……!!”

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