黒水晶
テグレンは目を見開きイサに尋ねた。
「それって、戦を仕掛けられたってことかい!?
穏やかな話じゃないね。そうなるいきさつに、心当たりがあるのかい?」
エーテルとイサは目を合わせ、マイとテグレンの方を交互に見た。
数秒経ってもなかなか口を開かないイサの代わりに、エーテルが話すことにした。
「……このことは、本来、マイとテグレンを国に送り届けてから話すはずだったんだけど……。
事態が変わったから、一部だけ話すわ。
テグレンも、よく聞いて」
静かで落ち着いた声だ。
「私の母国·ルーンティア共和国と、イサの母国·ガーデット帝国は、交友関係にあった。
代々剣術を極めてきたガーデット帝国。
同じく、代々魔術を極めてきたルーンティア共和国。
ふたつの国が協力しあうには、限度があった」
「限度?」
マイが真面目な目で訊(き)き返す。
覚悟を決めたように、イサがその続きを話した。
「剣術と魔術、二つの能力が混ざり合うことで壮絶な力を発揮し、敵国のどんな攻撃をも跳ね退けられると信じられていた。
いつでも、どんな時でも、ガーデットとルーンティアはお互いが協力しあい、守り合う関係だと誓い合っていた。
……だが、最近、それを上回る勢力を持った別の国が、ガーデット帝国を攻め落とす……という密告があった。
密告した人間の正体が分からない以上、嘘か本当かは分からない。
でも、我がガーデット帝国の歴史書には、敵国に襲われたことによる、国存亡の危機が何度か訪れたことがあると記されている。
だからこそ、その密告が真実だったときに備え、より強い力を味方につける必要があった。
……それが、マイの魔法の力」
イサは遠い目をした。