黒水晶
花壇の前で、イサとマイがなにやら立ち話をしている。
「ったく、あいつらっ!」
書類作成に嫌気がさしていたレイルは、マイ達に一言注意しようと、窓から身を乗り出した。
「レイル、野暮なことをしてはいけませんよ。
ここは、『見て見ぬフリ』が賢明でしょう」
にこにこ笑うフェルトに、レイルはうんざりした顔を向けた。
「フェルトさん並みに頭良ければいいんすけど、俺にはこういう仕事合わないっすよ。
息が詰まる……。そんなとこにあんな場面見せられたら、文句のひとつも言いたくなるっすよ」
「まあまあ。よく、1年もこの仕事を頑張りましたね。
イサに頼んで、魔術訓練師に志願してみてはどうですか?
早ければ、明後日には対処してもらえるでしょう」
レイルには、頭より体を使う仕事の方が合っている。
魔術訓練師という職業は、外で人間に魔術を教えるのが主な仕事なので、断然レイル向きだった。
フェルトはレイルの体を窓から離れさせ、穏やかに言った。
「何がなんでも、イサには幸せになってもらわないと、私の気が済みませんしね。
私の想い人は、彼を想いながら亡くなっていったのですから」
「え!? フェルトさん、今、何て言いました!?」
レイルは声を裏返す。
「想い人って何すか!?
フェルトさん、いつの間にそんな女性と出会ってたんすか!?
分かるように説明してくださいよぉっ!!」
「さぁ、仕事はまだ終わっていません。
ボーイズトークはこのくらいにして、続きを片付けちゃいましょう」
「それを言うならガールズトークでしょ! じゃなくて!」
フェルトとレイルはしばらくそんなやり取りを繰り返していた。