黒水晶
イサはマイの横にしゃがみ込み、彼女と同じようにひとつの花に触れた。
「きっと今も、彼らは俺達を……。
コエテルノ·イレニスタ王国を見守っていてくれる。
彼らにはもう二度と会えないかもしれない。
でも、その分、俺がずっと、マイのそばにいるから……」
“何が何でも、マイを守るから”
イサは、隣で座り込んだまま動かないマイの頭をそっとなでた。
「…………そうだよね。
みんなはきっと、私達のそばにいてくれるよね」
マイは疑っていた。
ローアックスを操ってエーテルを襲わせた真の黒幕はディレットなのだと。
しかし、それは違っていた。
ローアックスを操っていたのは、禁断魔術の使い手であるルーンティア共和国の国王ケビンと、セレス王妃だったのだ。
二人は、ガーデット城に捕われていた時に、ヴォルグレイトにそう命令され、泣く泣くローアックスを操り、自分達の娘·エーテルを襲わせたのだ。
ルーンティアの禁断魔術。
それは、死後間もない綺麗な死体を、魔術師の意のままに操れるという恐ろしい術だった。
ヴォルグレイトにとって、エーテルは邪魔な存在だった。
イサの幼なじみだから。
それに加え、エーテルは、自らの命を捧げてまでマイを守り抜くという強い意思を持っていた。
それも、ヴォルグレイトにとっては都合が悪かったのである。