黒水晶
イサは恐る恐る、フェルトのかざしたクッキーを見上げ、
「よく気がついてくれたな。俺とリンネが話してることに……。
リンネは本当に、魔法のクッキーを食べてないの?
リンネがクッキーを食べた後、俺の体は光ったんだ!
あれは、剣術のものじゃない……」
「それはですね、何て言いますか……。イタズラ心が湧いたんですよ。
さもクッキーの効果が出たかのように、タイミング良く私の高貴な魔術で演出してみせたのです。
驚きましたか?」
「当たり前だっ!! 『何が高貴な魔術』だよっ。
もう、リンネの意のままに生きるしかなくなるんだって、恐かったんだから……」
イサは、今さらやってきた恐怖に体を震わせた。
マイへの気持ちを失うかもしれないと考えただけで、足元が崩れそうになった。
「すみません。冗談が過ぎました」
フェルトは悩ましげな表情で言った。
「やり甲斐はあるものの、デスクワークは堅苦しいものでして。
時々、思いきり遊びたくなるんですよ」
「遊び過ぎだっ!
お前、いまだに、俺のことオモチャだと思ってるだろ」
「いえいえ。めっそうもない。
この国を建国された高名なお方を相手に、そんなことしませんよ」
「お前が言うと、どこまでもうさんくさい……」
イサはしばらくジトッとした目でフェルトをにらんでいたが、フェルトはとことんこの状況を楽しんでいた。