黒水晶
フェルトは笑うのをやめ、リンネをベッドに寝かせると、静かなまなざしをイサに向けた。
「これからマイさんを探しに行くのでしょう?」
「そのつもりだった……。
でも、リンネを置いていくわけには……」
イサは、ベッドでぐっすり眠っているリンネを見下ろした。
フェルトが眠りの魔術をかけたらしい。
彼女はしばらく目を覚まさないだろう。
「……まさかリンネが、マイのことをあんな風に思ってたなんて、夢にも思わなかった。
二人は姉妹なのに……」
「イブリディズモの生の声が聞けましたね」
フェルトはリンネを見下ろす。
「フェルトも、イブリディズモのことを知ってたのか!?」
「もちろん。トルコ国の魔術指南学園に通っていた頃、歴史の授業で学びました。
アスタリウス王国に仕える一族として、当然の知識です」
「そっか……。フェルトはそんな昔から、何もかも知ってたんだな……」
自然の神達に話を聞くまで、イサはイブリディズモのイの字も知らなかった。
フェルトはそんなイサを思いやるように優しく言う。
「あなたはヴォルちゃんの元で育てられたのだから、仕方がありません。
自国にとって不都合な情報を王位継承者に教えないのは、王として当然の心理。
……それより、あなたは今、自分がしたいことをするべきではないですか?」