黒水晶
どうしてここでエーテルの名前が出てくるのだろう?
疑問に感じたイサは、フェルトの顔をのぞき込む。
思い詰めたような表情。
こんな顔をしているフェルトを見るのは、黒水晶の能力が暴走した時以来だ。
「フェルト……?」
「……あなたに渡さなくてはならない物があります」
フェルトは黒い衣装の内側にスッと手を入れ、黒い封筒に入った手紙を取り出した。
これは、エーテルが亡くなる数日前に、フェルトがエーテルから預かっていた物。
『私に万が一のことがあったらイサに渡してほしい』と、言われていた。
「本当はもっと早くに渡したかったのですが、まだ時期じゃないと思い、渡せずにいました。
今のあなたなら、この手紙の意味を正しく汲(く)んでくれると信じています。
……もし旅立つのであれば、私とレイルもお供しますよ。
そうでなくても、私達はあなたの指示に従います。
コエテルノ·イレニスタ王国の上官として」
「……」
イサは手紙に視線を落としたまま、フェルトが部屋の出入口まで歩いていく気配を感じていた。
「最後にひとつだけ……。
イサりん。同情は、愛情を拒絶する以上に相手を傷つけます」
この一言を優しい声音で伝えたのは、フェルトなりの配慮。
イサは、立ち去るフェルトの足音を耳だけで追っていた。