黒水晶

イサにとって、リンネとエーテルは大切な幼なじみだ。

彼女達とは、親以上に長い時間を共に過ごしてきた。

リンネとの関係が良いものとは言えなくなった今、イサは手に汗をにぎらずにはいられなかった。

高ぶる気持ちを落ち着けるため深呼吸を繰り返し、ペーパーナイフでそっと手紙の封を開ける。

これを見たら、未来に続く道しるべが見えるような気がした。

今後、自分がどうするべきなのかも……。


真っ黒の便せんには、白い字がクッキリ浮かび上がっていた。

文字が放つ光は、風にさらされた蝋燭(ろうそく)の火のように、数秒おきに輝きを弱める。

この手紙の文字は、特別な魔術を使って綴(つづ)られている。

イサが読み終えたら字が消える、という仕組みだ。

この魔術はそう難しいものではなく、魔術の基礎を勉強した者なら誰でも習得できる簡単なもの。

しかし、一般的には広く知られておらず、主に王族生まれの人間達しか使用しない。

国民にはさらせない政治関連の情報を手紙でやり取りする際に使われる魔術だ。

敵国に知られたくない情報を同盟国に送る時などにも、よく用いられる方法である。

そういったことを、イサは幼い頃からよく知っていた。

“エーテルは、なんでわざわざ魔術書簡を残したんだ……?

普通の手紙じゃ伝えられないようなことが書いてあるのか?”

胸騒ぎを感じつつ、イサは手紙に目を通した。

< 362 / 397 >

この作品をシェア

pagetop