黒水晶
イサは先の文章を読み進めた。
《両親が守り抜いてきたルーンティアの指示に逆らいたくはなかったし、常に自国の方針に忠実な王位継承者でありたかった。
でも、マイを迎えに行く前から。いいえ……。ルミフォンド(マイ)をあの丘に置き去りにしてしまった瞬間に、私は国を裏切っていた。
どうしても理解できなかった。
正義とは何なのか。
王族は、やるべきことをできているのだろうか、と。
守るべき者を追放し、欲にまみれた人間が魔法使いを食い荒らす世の中……。
昔ほどひどくはなかったけど、ルーンティアにも魔法使いへの偏見や差別はあった。
ずっと、ずっと、マイに償(つぐな)いをしたかった。
マイをイサに引き合わせることが、償いの第一歩だった。
マイに再会した私は、それまで以上に欲張りになっていった。
魔法使いと共存する世界を築いて、幸せに暮らしたいという願いを持つようになった……。
旅の途中、マイは、一部の人間から奇異(きい)の目で見られていた。
私はそれが許せなかったし、不甲斐なかった。
心の奥で、長い間、願っていた。
魔法使いへの差別や迫害のない、幸せな世界になれば……と。
あなたのことについても、毎日考えた。
イサを禁固刑にしたら、イサの人生はそこで終わってしまう。
あなたをそんな目にあわせることが、何よりつらかった。
私にとってそれは、自分の命を落とすよりも怖く、耐えられないことだった。
ヴォルグレイト様の息子だからという理由で、どうしてイサまで処罰を受けなくてはならないんだろう。
ルーンティアから命令を受けて以来、毎日悩んでいた。
マイをあの丘に連れて行った時と同じくらいに。
納得できないことばかり。
眠れない夜が続いた。
結局私は、私情で国の命令を無視した。》