黒水晶
「リンネ、ごめん。
俺は、無期限でマイを探しに行く。
さよなら」
イサは、気を失ってベッドに寝かされているリンネを見下ろした。
穏やかな面持ちで瞳を閉じている彼女。
その寝顔は、幼い頃と変わらない……。
旅の支度を整えると、誰にも行き先を告げずに、イサは城を後にした。
フェルトに、旅立ちを決めたら声をかけてほしいと頼まれていたが、イサは一人でマイを探すと決めた。
もし自分がいなくなっても、フェルトとレイルなら、この国をうまく運営してくれると信じているのだ。
また、自分が今まで城の主でいられたのは、フェルトとレイルのおかげだ、と、イサは思っている。
“フェルト。レイル。ワガママな俺を許してくれ。
コエテルノ·イレニスタ王国のことは、お前たちに任せたぞ……”
マイと共に、新しい国を作ることしか考えられなかった去年の自分。
しかし、イサは変わった。
“絶対、あきらめないから。
マイと生きることを……”
マイを守るとはどういうことなのか……。
イサはようやく、それに気付くことができた。
国や城といった目に見えるものを盾にするのではなく、自分がマイの心の盾になること。
それこそが、本当にマイを守ることに繋がるのだと気付いた。
コエテルノ·イレニスタ王国を出てしばらくは、にぎやかな町並みが続いていた。
1時間ほど歩くと、視界はただっぴろい草原でいっぱいになる。