黒水晶
「イサはどこに行ったの!? 教えて!
あなたは知ってるんでしょ?」
目覚めて早々、リンネはベッド脇に立っていたフェルトにすがった。
「どうするのが一番いいのか。
リンネさんも、本当は分かっているのでしょう?」
フェルトはリンネを諭(さと)すように言葉を紡ぐ。
「どうしてみんな私の気持ちを分かってくれないの!?
なんで、マイちゃんのことばかり心配するの?
イブリディズモに生まれたっていうだけで、人の何倍も嫌な目にあう。
つらいのに、どうして理解してくれないの……」
イサに恋心を受け入れてもらえなかったことに重なり、フェルトまでもがマイとイサの仲を応援しているのだと知り、リンネは焦(じ)れた。
フェルトは根気よくリンネのグチに付き合い、彼女の気が済んだであろう頃、冗談めかしてこう言った。
「想い人と心が通じなかった悔しさやみじめさ、私にも経験ありますよ。
深く共感します」
「うそ……。フェルトさんが?」
リンネは目を丸くし、朗らかに話すフェルトを見つめた。
現在フェルトは、メディアで《コエテルノ·イレニスタ王国トップの美男子上官!》ともてはやされるほど、女性からの人気が高い。
某雑誌には、イサと並んでトップ2とまで言われている。
その上、数年前に世界上級魔術師としても認定されている、魔術師としての地位や名誉もある高名な人物なのだ。
『恵まれた才覚を持ちながら、なぜ罪人の息子の建国に力をかすのだ?』という批判的な声も、一部から寄せられている。
フェルトは気ままに暮らしたかったため、コエテルノ·イレニスタ城が出来るまで誰にもそのことを言わなかったが、建国と同時にそれらの情報は世間で独り歩きしてしまった。
「気休めなんて言わないで下さい。
フェルトさんみたいな人に同情されても、よけいみじめになるわ」
しかめっつらでそう返すリンネに、フェルトは笑みを崩さずサラッと告げた。
「リンネ様は私のことを買いかぶりすぎですよ。
人気と愛され度は、必ずしもイコールでつながるわけではありませんから。
……なんなら、私がみじめになる瞬間を、今この場で披露して差し上げますよ」
フェルトは、イサから預かった魔法のクッキーをためらいなく口にした。