黒水晶
「フェルトさん……!」
リンネはフェルトの背中をつかむように、彼の衣服を引っ張った。
「はい、何でしょう」
フェルトは横顔だけで振り向く。
「どうしてそんなにヘラヘラしていられるの?
フェルトさんだって、つらいはず。
イサに嫉妬したことだってあるはず。
なのに、なんで笑ってられるの?」
「元が楽観的な性格なので~」
「真面目にこたえてください!」
リンネはこわばった表情で彼の正面に回った。
“私だって、嫌な感情に支配されたまま生きていくことなんて望んでないわ!”
どうしたらフェルトのように気持ちの切り替えをできるのか、知りたかった。
「簡単なことですよ」
フェルトは澄んだ瞳でリンネの頭に手をやる。
「この世に生まれてきたことを受け入れるのです。
自分は生かされるべくして生きている存在なのだと、信じるのです。
そうすればいずれ、自分を産んでくれた親に感謝の気持ちを持てるようになります。
周りの人の好意に気付けるようになります。
世の中のあたたかい部分に、目が行くようになります。
あなたも、私も、意味があってここに存在しているんですよ。
野原に生えた草のように。
大地を包む空気のように」
イブリディズモとして生まれたリンネをいたわるように、フェルトはそう告げた。
フェルトの言葉を胸に染み渡らせるべく、リンネはしばし目を閉じる。