黒水晶
二人のやり取りを見て、フェルトは亡き両親を想起した。
涙腺(るいせん)が緩むのを感じたが、彼はすぐにいつもの穏やか楽天的フェイスに戻り、リンネに提案した。
「魔法を使うのは無理かもしれません。
ですが、魔術なら、私がいくらでも教えてさしあげますよ。
レイルも近々、魔術訓練師になると言っていましたし、教える側の人間に不足はありません。
クオリティーも保証しますよ。
イブリディズモのリンネ様なら、人間の私達以上に、魔術を使いこなせる素質があります。
元々魔術は、魔法使いが使用する魔法を、人間的アレンジで再現したものですから」
それでも、魔術というものは、世界最強の能力を持つ万能種族·魔法使いにはかなわない。
ただ、魔術を使えるのと使えないのとでは、暮らしやすさが格段に違う。
魔術を習得すれば、仕事や趣味の幅も広がるのだ。
リンネは自分に自信をつけるため、フェルトに魔術を習うことにした。
そしたら、祖母のテグレンの力になって多少は楽をさせてあげられるし、自分自身の視野も広がりそうだ。
やるべきことが決まると、気分は晴れやかに。
リンネの中に渦巻いていたメランコリーは風になって消えた。