黒水晶
――それから1千年の時が経ち、世界は大きく変わった。
文明が発達し、人間の技術力は、今も秒刻みで成長し続けている。
地上を高速で移動できる新幹線や、空を飛べる飛行機といった物も開発された。
人間にとって魔法使いは伝説や夢の存在になり、イブリディズモという単語すらホコリをかぶるくらい古い歴史となった現代にも、コエテルノ·イレニスタ王国は存在していた。
今では世界一の先進国として、名を上げている。
時代の流れに乗せられ、人々は魔法の存在を信じなくなり、自分たちが生み出した最先端の技術に頼って、快適な暮らしを送っていた。
世界には、歴史研究家や考古学者という肩書きを持った人間も数多く存在するが、魔法への研究は何一つされないまま、時は流れている。
ブロンドの髪をした未成年の少年は、コエテルノ·イレニスタ王国を目指して砂漠の中を歩いてた。
滴る汗を拭うたび、彼の青い瞳に疲労の色が濃く浮かぶ。
彼は王族の偉い立場にあるにも関わらず、かつて先祖が住んでいたと言い伝えられているコエテルノ·イレニスタ王国を一目見るため、付き人を一人も付けずに独断で砂漠を進んでいた。
平原や街中にある舗装された道を通ると、村人に見つかり連れ戻されてしまうからだ。
彼は、人間でもなければ神でもない存在として、この世に生を受けた。
いや。正確に言うと、彼の最初の先祖に当たる人間だけが、魔法使いと神であった。それ以降は、人間の血筋のみで家系図が成り立っている。
彼は山岳地帯にそびえる小国を治める王の後継ぎとして育てられたのだが、この14年間、どうしても気がかりなことがあった。
彼の先祖の一人は、コエテルノ·イレニスタ出身の魔女だという噂があるのだ――。
それが本当なら、その国に足を運んで、先祖が過ごした軌跡(きせき)をたどりたいと、彼は思った。