黒水晶
少年がコエテルノ·イレニスタ王国につくと、城下町はたくさんの人であふれ返っていた。
太鼓をリズミカルに叩く音や、透き通るような笛の音色が空いっぱいに響き渡り、明るい雰囲気を作り出している。
市場にはところせましと店が並び、楽しそうに射的や金魚すくいをしている子供の姿もあった。
食べ物の香ばしい香りが食欲を刺激する。
少年は、通りすがりの若き婦人を呼び止めた。
「お祭りをされているようですが、今日は何か特別な日なのでしょうか?」
「そうよ。今日は、この国の2012回目の建国記念日なの。
初代の王様の魂を迎え入れる日でもあるわ」
「初代の王の魂、か。
イサのことですね」
少年が言うと、婦人は優しそうな丸い目をさらに丸くした。
「あなた、この国の子じゃないのね。
フェルト様。初代の王様の名前よ。
夜には、フェルト様の名を呼びながら、慈しみの意味を込めて、国中のみんなが、魔術師お手製の特殊な風船に炎を入れて、空に飛ばすの」
「フェルト様、か……」
親切に答えてくれた婦人に会釈をして、少年は再び城を目指して歩きはじめた。
“この国の初代の王は、イサじゃないのか?
……うちの国の歴史も、アテにならないな”
少年は冷静に考えをまとめ、周囲を見渡した。
魔術師もいれば、剣術師もいる。
“変わった国だな”
どちらかというと、少年の住む国は閉鎖的で、他国の技術や能力者を受け入れない風潮が濃い。
反面、この国は、様々な能力者と人間が行き交い、楽しそうに暮らしている。
開放感溢れるこの国の雰囲気に、彼は衝撃を受けた。
“この国のことは世界史の講義で習っていたけど、こうして直に現地を見ると、全然違う感覚だな”