黒水晶
コエテルノ·イレニスタ城に着いた少年は、入城手続きをすませ、書庫に通された。
この城の書庫には『歴史を学びたい』という学生が、毎日大勢やってくる。
身元さえハッキリしていれば、他国の人間でも簡単に通してもらえるのだ。
小国とはいえ、そこの後継ぎとして生まれた少年の素性を知り、書庫の管理係は顔色を変えたが、少年はそれに気付かぬフリをして書庫に足を踏み入れた。
古く小汚い洋館を想像していたのだが、常に手入れされているのだろう。掃除が行き渡っている。
白い床は少年の姿を映すくらいピカピカに磨かれており、学生が複数来ても良いように、イスも複数用意されていた。
多少の手垢(てあか)はあるものの、書物にも目立った汚れはなく、日頃から丁重に保管されていることがうかがえる。