黒水晶
「どういうこと?」
「詳しいことはいずれ必ず話すから。
だから、明日にはここを離れられるように、すぐ準備をしてほしいんだ。
俺と一緒にきてくれ」
「マイをどこへ連れていく気だい!?」
イサの後ろには、いつの間にかテグレンが立っていた。
マイが言葉を発するより先に、涙目のテグレンはイサにつかみかかる。
「あなたは?」
イサはテグレンに訊(き)いた。
テグレンは一瞬手を緩めたが再び力を入れ、
「マイは、ずっとここで暮らしてきたの。
血はつながってないけど、マイは私の孫のような存在なんだ。
今さっき、街の悪いヤツらがマイを襲いに行ったって聞いて、いてもたってもいられなくて、こんな時間だけど急いでやってきたんだ。
マイ。行っちゃダメだよ!
この少年も、あんたを悪いことに利用するつもりかもしれない!」
マイはテグレンの涙ながらの訴えに泣きそうになりつつも、
「テグレン。この人……。イサは悪い人じゃないよ。
さっき、知らない人達に襲われてもうダメかと思ったとき、イサが助けてくれたの」
テグレンはイサを見て、
「マイを助けてくれたことには礼を言うよ。
でも、それじゃあマイを連れてく理由にはならない」
マイもテグレンの言葉にうなずいた。
「私もそう思う。
イサ、助けてくれて本当にありがとう。
だけど、この店は私の全て……。
ここを離れたくないし、テグレンと離れ離れになって会えなくなるのはもっとイヤなの」
イサはテグレンとマイを交互に見た後、土下座した。
「非常に勝手な話なのですが、いまは状況的にも立場的にも詳しいことはお話できません。
ですが、我が国にとってマイ様は、自分の子供同然の存在であり、ずっと探していた人でもあるのです。
俺は、国からマイ様の護衛を命じられてここへ来ました」
イサの行動と発言に、テグレンとマイは目を丸くする。