黒水晶

前方を行くイサ達と後方にいるマイの距離はやや離れているため、お互いの声は聞こえても、話の内容までは届かない。

テグレンはニコニコと嬉しそうにイサのことを話すマイを、ただジーッと見つめていた。

「どうしたの? テグレン」

視線に気づいたマイが訊(き)いた。

「いや、ちょっとね。

昔、娘が恋人について話してる時の表情にそっくりだったからさ」

「テグレン……」

“やっぱり、本物の娘のこと、考えちゃうよね”

テグレンの心境を思い、マイは胸が痛んだ。

テグレンに好きな人との結婚を反対された娘は、それが原因でテグレンの元を去っていった……。

目に見えて沈んだマイの表情に気付き、テグレンは話題を変える。

「にしても、マイの両親が生きてて、ホントによかったじゃないか」

< 72 / 397 >

この作品をシェア

pagetop