黒水晶
前方を行くイサ達と後方にいるマイの距離はやや離れているため、お互いの声は聞こえても、話の内容までは届かない。
テグレンはニコニコと嬉しそうにイサのことを話すマイを、ただジーッと見つめていた。
「どうしたの? テグレン」
視線に気づいたマイが訊(き)いた。
「いや、ちょっとね。
昔、娘が恋人について話してる時の表情にそっくりだったからさ」
「テグレン……」
“やっぱり、本物の娘のこと、考えちゃうよね”
テグレンの心境を思い、マイは胸が痛んだ。
テグレンに好きな人との結婚を反対された娘は、それが原因でテグレンの元を去っていった……。
目に見えて沈んだマイの表情に気付き、テグレンは話題を変える。
「にしても、マイの両親が生きてて、ホントによかったじゃないか」