黒水晶

イサは続けた。

「伝説によると、裏の世界には、この世の何億倍もの自然エネルギーがあふれているらしい。

今のところ、実際にそれを確認した人間はいないみたいだけど……。

裏世界のことが書物に残されていないのは、人間に悪用されないためだってカーティスは言ってた。


いま、この世界の自然エネルギーは激減しつつある。

だからこそフェルトは、エーテルを連れて裏の世界に侵入し、エーテルに自然エネルギーを浴びさせようとしたんだ」

マイは安心した表情になり、

「じゃあ、エーテルは助かるかもしれないんだね!」

テグレンも目を潤ませ、

「しばらくしたら、二人は裏の世界とやらから戻ってくるってことだね」

と、笑った。

イサはまっすぐ二人を見てうなずいたが、

「だけど……」

と、眉をひそめる。

「どうしたの?」

マイは首を傾げイサを見やったが、イサはいつもの穏やかな笑みを見せ「なんでもない」と、話を切る。

イサは、フェルトの正体にますます謎を感じていた。

“なぜ、フェルトは禁断魔術を使えるんだ?

どこで、どうやって禁書を閲覧した?

普通の魔術師より強くて優秀なのは、見てて分かるけど……。

今まで陰ながらマイを守っていたことと、何か関係があるのか?”


「せっかく用意してもらった宿だ。

エーテル達が戻るまで、私たちも休もうじゃないか」

テグレンは言った。

そのあとすぐ、宿の人間が部屋に訪れ、人数分の食事を運んできた。

「フェルトさんの知人の方達だとお聞きしているので、サービスさせて頂きました」

と、デザートをたくさんつけてくれる。

イサは目を輝かせながら嬉しそうに息をつき、

「うわあ! これ、全部大好物なんだぁ」

と、食事を差し置いてデザートをつまみ食いする。

「イサっ!?」

マイはイサの言動に驚いた。

イサは肩をすくめ、

「こんなこと、城でやったら一週間の謹慎じゃ済まないな。

執事長に叱られる。

でも……。今は、マイとテグレンしかいない。

友達の前でくらい、立場とか忘れて、はっちゃけたっていいだろ?」

と、笑顔を見せた。

イサが友情を感じてくれていることに胸をあたたかくしたマイは、一緒につまみ食いをしたのだった。

さすがにテグレンは「行儀が悪いよ!」と、注意していたけれど。

< 97 / 397 >

この作品をシェア

pagetop