黒水晶
イサは続けた。
「伝説によると、裏の世界には、この世の何億倍もの自然エネルギーがあふれているらしい。
今のところ、実際にそれを確認した人間はいないみたいだけど……。
裏世界のことが書物に残されていないのは、人間に悪用されないためだってカーティスは言ってた。
いま、この世界の自然エネルギーは激減しつつある。
だからこそフェルトは、エーテルを連れて裏の世界に侵入し、エーテルに自然エネルギーを浴びさせようとしたんだ」
マイは安心した表情になり、
「じゃあ、エーテルは助かるかもしれないんだね!」
テグレンも目を潤ませ、
「しばらくしたら、二人は裏の世界とやらから戻ってくるってことだね」
と、笑った。
イサはまっすぐ二人を見てうなずいたが、
「だけど……」
と、眉をひそめる。
「どうしたの?」
マイは首を傾げイサを見やったが、イサはいつもの穏やかな笑みを見せ「なんでもない」と、話を切る。
イサは、フェルトの正体にますます謎を感じていた。
“なぜ、フェルトは禁断魔術を使えるんだ?
どこで、どうやって禁書を閲覧した?
普通の魔術師より強くて優秀なのは、見てて分かるけど……。
今まで陰ながらマイを守っていたことと、何か関係があるのか?”
「せっかく用意してもらった宿だ。
エーテル達が戻るまで、私たちも休もうじゃないか」
テグレンは言った。
そのあとすぐ、宿の人間が部屋に訪れ、人数分の食事を運んできた。
「フェルトさんの知人の方達だとお聞きしているので、サービスさせて頂きました」
と、デザートをたくさんつけてくれる。
イサは目を輝かせながら嬉しそうに息をつき、
「うわあ! これ、全部大好物なんだぁ」
と、食事を差し置いてデザートをつまみ食いする。
「イサっ!?」
マイはイサの言動に驚いた。
イサは肩をすくめ、
「こんなこと、城でやったら一週間の謹慎じゃ済まないな。
執事長に叱られる。
でも……。今は、マイとテグレンしかいない。
友達の前でくらい、立場とか忘れて、はっちゃけたっていいだろ?」
と、笑顔を見せた。
イサが友情を感じてくれていることに胸をあたたかくしたマイは、一緒につまみ食いをしたのだった。
さすがにテグレンは「行儀が悪いよ!」と、注意していたけれど。