黒水晶
6‐2 フェルト
エーテルを横抱きにして裏世界に侵入したフェルトは、ふぅ、と、悩ましげなため息をついた。
「マイさんの涙に動かされてこんな魔術使っちゃいましたけど……。
さすがにイサも、私のことあやしんでますよねぇ……」
眠るエーテルの顔を見つめる。
莫大な自然オーラが、みるみると彼女の体内に染み込んでいくのが分かる。
――フェルトはある目的のために動いていた。
「それをイサ達に気付かれてしまっては、さすがに困りますね」
フェルトの目的。
それは、自分がイサくらいの歳の頃に滅ぼされた自分の国を復興させること。
マイを見守ってきたのも、その目的に関係があるからだ。
しかし、イサやエーテル達とは異なり、フェルトはマイの魔法能力に協力を求めるつもりはない。
「……イサ。
君は、私の敵となりますか?
それとも、味方であってくれるでしょうか?」
寂しげな声でつぶやくフェルト。
なぜ、自国があのように滅ぼされなくてはならなかったのか……。
フェルトにはそれが分からなかった。
瞬く間に襲撃され、いつの間にか親を亡くし、友人を虐殺され、泣く泣く逃げ伸びた頃には、一人、さすらいの旅人になっていた。
フェルトは、自分に魔術の知識があって本当によかったと思った。
でなければ、今、こうして生きていなかったかもしれない……。
一人になってからは生き延びることに必死だったため、働きながら全世界を旅し、魔術の能力を磨いた。
どんなに難しく習得不可能と思えた魔術も、覚えようと努力してきた。
つらくて、めげそうになったことも何度かあったが……。
諦めないで熱中しているうちに、いつの間にか『魔術師として能力に秀(ひ)でている』『才能がある』と人々に尊敬され、噂されるようになっていった。
そうした経過を経て生きることに余裕が出てきた二十歳の頃、フェルトは、ふと、母国を襲った敵国のことを考えるようになった。
“あれは一体何だったのだろう……。
夢だと思いたいが、あれは確かに起きたこと。
なぜ、私の国が滅ぼされた?
私の父や母、友達を、あんな目にあわせたのは何者だ?”
出来るだけ考えないようにしてきたが、長年抑えてきた感情はいとも簡単に膨れ上がり、悔し涙が出た。
その時流した涙が、フェルトにある決意をさせる――。