黒水晶
“自分の母国を、親を、友人を消し去った謎の敵の行方を追い、あの戦いが起きた理由を、絶対に突き止めてみせる!”
二十歳のフェルトは、自分にそう誓った。
それから3年――。
様々な地域で情報を集めていくうちに、フェルトはマイの元へと辿りついた。
彼がまず驚いたのは、マイの住んでいた丘の家には、最初から防御魔術がほどこしてあったことだ。
“何者かが、マイさんをかばっている?”
その時からフェルトは、母国崩落の謎と共に、マイの近辺や出生についても調べるようになった。
マイを守りながら……。
そうしているうちにフェルトは、イサの生まれ育ったガーデット帝国へと、足を運ぶことになった。
ガーデット帝国について調べると、ルーンティア共和国と親交があることわかった。
だが、ガーデット帝国の城下街に住む一部の者の中には、「ルーンティア共和国とは手を切るべきだ」と考える人間もいた。
フェルトはその情報をくれた街人を追求しようとしたが、うまくはぐらかされてしまい、それ以上のことは話してもらえなかった。
その頃から、フェルトはガーデット帝国を怪しむようになる。
そんな中、イサがマイの前に現れ、彼女をガーデット帝国へと連れていこうとした。
ガーデット帝国が怪しいという証拠はなかったが、イサの姿を見てフェルトは緊迫感を覚える。
だが、予想に反し、イサは純粋でまっすぐな少年だった。
フェルトが考えていた《ガーデット帝国次期王位継承者》とは思えないくらいに……。
その頃からフェルトは、イサやエーテルのことも調べるようになった。
マイとイサ、エーテル。
3人を見ていると、昔自分も、亡くなった友人らとそうして笑い合っていたことを思い出し、フェルトは彼らを見守らずにはいられなくなってしまったのだ。
もちろん、母国崩落の謎を突き止めるのを諦めたわけではない。
必ず敵の正体を暴き、二度とああいう卑劣な争いをしないよう、黒幕に誓わせるつもりだ。
“血のつながった肉親を亡くし、友人の死に様を黙って見ていることしかできなかった悔しさと悲しさ……。
そんなものを味わうのは、私だけでいいんです”
孤独ながらも、フェルトは世界の明るい未来を夢見ていた。