毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 私は信長が用意してくれたカツラの髪を耳にかけた。

 私は心から、この兄弟には感謝しないといけない。

 何か返せるものがあるのならば、恩を何十倍にもして返したいのに。

「ま、一番驚いて、腰を抜かしてるのはあんたか。帰りたいのに、帰り道が無くなっちまって。どんなにつらい心情か、俺には理解できねえけどさ。ここにいる間は、俺も兄上もあんたを守る」

「一生いるかもよ?」

「それならあんたの一生、守り通して見せる」

 信包が鼻皺を寄せて笑った。

 私も笑顔につられて、クスクスと笑い声をあげた。

「実はさ。あんたを説得させようって意気込んで来たんだ。国元に帰りたいなんて気持ちは捨てて、兄上の傍に居て欲しいってさ。でも俺から頼まなくても、あんたはもう答えが出てるみたいだ」

「え?」

「あんた、『もう戻れないなら』ってさっき言っただろ。ここに残る決心がついたってことだろ」

 そんなつもりじゃ……。

 でも、信包に言われた通りかもしれない。私はどこかでわかってるんだ。
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