毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 私の目の前に、でんと座ると腕を組んだ。

「信包様が?」

『俺からは言わない』みたいな発言をしておいて。しっかり前振りだけしてるじゃない。

「信包以外の男の口から、その言葉を耳にしておったら、儂は叩き切っておる。信包だから、許したのだ」

 信長がふんっと鼻を鳴らした。

 この姿を、ヤキモチをやいているって言うのかな?

 なんだか、ちょっと心地良い雰囲気だ。

 聖とは全くなかったなあ、こういうの。ただ淡々とした二人だった気がする。

 聖から女性の名前を聞いても、嫉妬する気持ち無かったし。私から男の名前が出ても、聖は別に怒ったりしなかったから。

 信長は違うね。私の話を弟の口から聞いただけで、すごく不機嫌になってる。

 信長のそういう姿を見られて、嬉しいと思う私は悪い女かな?

「私、決めたんです。この世界に残るって、決めました。だから元の世界に戻る手立てはもう……」

「わかった」

 信長の声が、私の言葉を遮った。

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