彼女は予想の斜め上を行く
残りわずか三十分。

一息いれることすら許されないはずなのに。

こんな風に一人寂しく残業していると、あの日のことまで思い出すのだから困りものだ。

あの日は俺が席を立とうとしたら、目の前にコーヒーが置かれたな。

コトッ

そう。こんな風に。

で、声を掛けられたわけだ。

「よかったら、どうぞ」

おぉ。デジャブ。

そう。まさにこんな感じだったな。

………って、ん?

「かっ、金本さん?」

後ろを振り向くと。

俺が彼女を家まで送り届けた日と同じ笑顔で、なかなかモノに出来ない女が立っていた。

「聞いたよ?裕行から」

その言葉は、二人が仲直りしたことを簡単に連想させた。

別に二人が喧嘩をしているからと言って、俺に勝機があるわけではない。

それでも、喧嘩しててくれた方が俺にとっては好都合だったから、少し落胆する。
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