彼女は予想の斜め上を行く
『ねぇ彩。あたし裕行には当然感謝してるよ。だけどね……長野君にも感謝してる。経験もないのに、一人でなんとかしようとしてる長野君に勇気もらった。作品作りの時も励ましてくれて、すごく嬉しかったんだ。だからね』


『今度は、あたしが彼の背中を押す。一人のパティシエとしてね』


なんなら、彼女になって押してくれた方が嬉しいんですけど。

なんて、軽口は叩けなかった。



嬉しかった。

そして、不甲斐なく思った。

もちろん、自分に対して。

「俺、最低だ……」

「ほんと、最低よね~。葵の想いを無下にしちゃうんだもん」

俺の呟きに反応した彩さんの答えは、悲しいくらいに当たっている。

「葵はあんたの背中押して前進させようとしてるのに、あんたそれにも気付かず逃げ出しちゃうんだもん」

彩さんの言う通りだ。

企画案に対しても。

金本さんに対しても。

中島裕行という存在の前に、俺は諦めるという形で逃げようとしていた。
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