彼女は予想の斜め上を行く
部屋を追い出される際のことを思い返す。


『簡単に諦めるとか言わないでよ…』


静かに放たれたあの言葉。

今にも泣き出しそうな……それでいて、悔しそうな表情。

あの言葉は…。

あの表情は…。

「俺が、企画案諦めたいって言ったからだ……」

そう言った俺のことを彩さんはジッと見つめた。

無視してやりたいところだったが、あんまりにも見つめられ居心地が悪くなる。

堪えきれずに「……なんすか?」と尋ねた。

「あんたってさ、本当に鈍感だよね……」

「え?」

「葵が怒ってる理由。マジで企画案だけだと思ってる?」

「……違うんすか?」

俺を見る彩さんの眼は、呆れるとかを通り越して痛々しいものを見るような哀れみの感情を映していた。

「まぁ今言ったら、面白くないか…」

ティースプーンでコーヒーをクルクルとかき回しながら、明るい声で呟き出した。
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