彼女は予想の斜め上を行く
コトッ
「よかったら、どうぞ」
「え?」
目の前に、まさに今入れに行こうかと思っていたコーヒーが置かれた。
そして、同時に聞こえた透き通るような声。
まともに聞いたのは、移動初日のあの時だけだが忘れない。
後ろを振り向くと予想していた通りの人物。
「あっ、ありがとうございます。金本さん」
いつもは被っているコック帽は頭になく、高い位置で長い髪をひとつに縛った金本葵がいた。
「いいえ。お疲れ様。残業?」
彼女は軽く頷きながら、俺のパソコンをチラッと見た。
「はい。金本さんも?」
明日は土曜日。
開発課は休みだが、彼女は仕事だ。
明日の準備でもしていたのか?
「あたしはもうすぐコンクールなんで、作品作り」
微笑みながら、彼女は俺の質問に答えた。
その笑顔に少し鼓動が早くなるのを感じながら、俺は何気なく言った。