彼女は予想の斜め上を行く


葵の様子がおかしいと気付き始めたのは、あの時からだ。



「見て。また来てる」


工房内で葵の同僚である塩原彩とレシピの確認を行っていると、そんな声が耳に入った。


「ホントだ。三日連続で来てるんじゃない?」

「やっぱ彼女?」

「え~!あたし長野さん狙ってたのに」


新卒パティシエふたり組の私語を注意しようとしつつ彼女達の視線を追うと、店舗のイートインスペースで話す勇人と小柄な女性の姿。

「ん?あれって……」

見覚えのあるその出で立ちに思わず小さく声を漏らすと、塩原彩が興味津々と目を輝かせ素早く反応した。

「中島君。知ってるの?」

気付けば、パティシエふたり組も含めた工房中の好奇の視線が俺に集中してた。

勇人の個人情報を晒すわけにもいかず、「まぁな…」と曖昧な返事をする。


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