彼女は予想の斜め上を行く
「葵さん。新しい生用意しましょうか?」

普段なら有り得ない先輩パティシエのミスに、気を遣って新しい生クリームを用意する後輩。

「ごめんね…」と申し訳なさそうにしている葵とボソボソになった生クリームを見て、どうしようもない胸騒ぎと不安を覚えた。





「葵」

名前を呼ぶと「ん~?」と声をあげながら、見ているようで見ていない野球中継から俺に視線を這わせた。

「勇人ってさ……」

呟くようにその名を口にすると、葵は目を泳がせて明らかに狼狽えて身構えてた。

「今、打率いくつぐらい?」

「へ?」

間の抜けた声を出すと、『なんだ…そっちね…』とでも言うように安堵の表情を浮かべた後、困ったように苦笑いして答えた。

「ごめん。最近、把握してない」

中継に視線を戻そうとする葵に俺は言った。

「じゃあさ……」

「ん?」

「勇人と何があった?」
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