彼女は予想の斜め上を行く
「あいつヘタレでビビりなクセに、諦め悪いからな」と小さく笑いながら付け足した。

「ひどっ。そこまで言う?」

「いいんだよ。ホントのことだし」

さすがの俺も勇人のことは、少なからず恨んでるわけで……冗談めかしたほんの少しの嫌味ぐらい言わせて欲しい。

それにわかるんだ。

ザルかよ!ってくらい酒に強い勇人が、葵にフラれた翌日珍しく二日酔いの状態で出勤して来たこと。

仕事も手につかなくて、いつでも上の空だということ。

らしくないのは、葵だけじゃなくて……勇人だって負けじと劣らずらしくない。

それは全部葵のことが未だに諦めきれないからだと、俺にはわかるんだ。


あの後、俺が手渡した勇人の住所を手に渋々そこへ行くことを葵は決断した。

「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ。うまくいくといいな?」

「うん…。あのね裕行…」

「ん?」

「今まで…ありがとう…」

その言葉に心底名残惜しくなって抱き締めたくなるけど、何とか堪えた。

「また何かあったら、相談しろよ?」と葵の頭を撫でて部屋を後にした。
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