彼女は予想の斜め上を行く
「…ったく。仕方ないなぁ…」
そう言いながらも、莉緒の要望通り目を瞑り顔を近付けて、唇を重ねようとした瞬間……。
―――『ながのくん…』
ふいに頭に思い浮かんだ人物の存在に一瞬動きが止まるけれど。
すぐに頭から掻き消そうと追い出そうと、もがきながら唇を重ねた。
頭の中からも心の中からもそう簡単には消えないその人物を何とか追い出そうと躍起になっていると。
軽く重ねるだけのつもりだった口づけは、深みを増して舌先は莉緒の口内を激しくまさぐってた。
その時だった。
ガタッ
夜の静かなアパート前に大きく響いた物音に我に返り「ヤバッ…」と小さく呟きながら、息を荒らげる莉緒から慌てて体を離して物音のした背後を振り返ると……。
「…金本…さん?」
そこには、いくら追い出そうとも掻き消そうともなかなか消えてくれない。
あの晩、内角を深く抉る言葉を放った女が街灯の光に照らされて確かに佇んでいた。