彼女は予想の斜め上を行く
「二死満塁」
「……え?」
どこまでもドン底に落ち込む女はしばしの沈黙の後、突然降って沸いた野球用語に戸惑いの声を漏らした。
涙目になった情けない面をあげて、眉を潜めてこちらを見つめる。
「客観的に見た葵と勇人の現状」
「……二死満塁が?」
頷く俺に自嘲気味な小さな笑みを浮かべ。
「ゲームセットの間違いでしょ?」と小さく漏らす葵にズバリ言ってやった。
「甘ったれんな。ヘタレでビビりな斜め上向き女」
「は?」
「勇人は、俺がいても葵に気持ち伝えたろ。なのにお前はどうよ?怖じ気づいて、逃げ出して。そのくせ、元カノ相手にガッツリ嫉妬して。勇人よりお前の方が、よっぽどヘタレでビビりだっつーの」
本当にその通りだから反論はしないけど、悔しいとは思うようでただただ黙って俺を睨み付ける。
「悔しかったら、全力投球してみろ。フルスイングしてみろ。それもしないで、勝手に試合終了してんじゃねーよ」