彼女は予想の斜め上を行く
チケット
今日は厄日だ。
朝から寝坊して遅刻はするし。仕事でミスはするし。帰りの車中で本日中に返却予定のレシピを返していないことに気付くし。
挙げ句の果てには、あの晩俺を清々しいぐらいにはっきりと拒絶した女とその彼氏が、仲良く話している現場に遭遇するし。
これを厄日と言わず、なんと言おうか。
「そうする」
目眩すら覚える大人のイイ男のオーラを醸し出しながら耳元で囁く中島先輩に、金本さんは眩しいぐらい満面の笑みを浮かべていた。
そんな金本さんを見つめる先輩の眼差しはとても優しくて、危うく胸の痛みを覚えかけるけど。
もう好きじゃない。俺には莉緒がいる。だからこの胸の痛みは、全部全部気のせいなんだ。
そう言い聞かせて目の前の光景と胸の痛みから、全力で目を反らした。
「じゃあ頑張れよ」と言って今度こそ工房を後にしようかという、今日も今日とて完璧な男を金本さんは呼び止めた。