彼女は予想の斜め上を行く
どこまでも笑顔で会話をして淡々と作業をこなす彼女を見てると、あの晩のことなんてなかったように思えるけど。
俺の中で確実に渦巻くこのどうしようもない気まずさが、紛れもない事実なのだと物語ってる気がした。
「大丈夫みたい。ありがと」
返却物の確認を終えた彼女はいくつかのレシピを箱の中から取りだした後、脚立を使い段ボール箱を棚の上に移動させようとしていた。
普段なら手伝うところだけど、気まずさを抱く俺としてはそんな余裕はないわけで。
「じゃあお先に失礼します」と言ってこの場から離れたい一心で、工房の出入口へ向かおうとする。
「待って!長野君」
焦るような金本さんの声についつい振り向くと。
「きゃっ…」
身を乗り出した為にバランスを崩し脚立から足を滑らせて、小さく叫びながら今にも落下しそうな彼女がいて。
考えるよりも先に体が動いてた。