彼女は予想の斜め上を行く
そんな期待に拍車をかけるかのように、彼女は真っ赤な顔のままこちらを見上げて口を開いた。

「長野君…。あたし、長野君のこと……」

名前を呼ぶその声が。見つめるその視線が。

ものすごく艶っぽくて不覚にも鼓動は高鳴るばかり。

その時だった。


「いらっしゃいませ」


店内に響く声。

ここが職場だということを咄嗟に思い出して、慌ててお互い距離を置いた。

だけど、体に残る彼女の温もりに。瞳に焼き付いた彼女の表情に。

鼓動は高鳴ったままだった。

いよいよごまかし切れなくなって来た想いを制するように、小さく深呼吸をしていると。

「あっ、そうだ。長野君」

先程までの態度と一転。

実にあっけらかんとした様子で、斜め上向き女が声をかけて来た。

金本さんは、机の引き出しから何かを取り出して俺に手渡した。

《長野君》と書かれた白い封筒の中身を取り出す。
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