彼女は予想の斜め上を行く
「《TOKYO ケーキショー》……?」
そう書かれた一枚のチケットを「あたしが出展するコンクール」と軽く説明した後、一呼吸置いて俺をしっかりと見据えて話続けた。
「来て欲しいの」
「え……?」
「長野君に絶対来て欲しいの」
心までも射貫きそうな真っ直ぐな瞳で言われた言葉に、なんと返すべきか詰まっていると再び店内から声が聞こえて来た。
「葵さ~ん。お願いします」
店内に繋がる出入口に視線を這わせると接客の手伝い要請をする販売員の姿があった。
金本さんは販売員に返事をした後。
「お疲れさま」と微笑んで工房から店内へと去って行った。
一人工房に取り残された俺は、笑顔で接客する彼女と手渡されたチケットをただただ見比べ、立ちすくむことしか出来なかった。