彼女は予想の斜め上を行く
言いたいことは山程あった。


「ごめん…。これで最後だから、もう少しこうさせて…?」


それなのに、口からついて出たのはなんとも女々しい願いだった。

ひとけのない廊下を見て、葵は戸惑いながらも俺の女々しい願いにコクリと小さく頷いた。



バニラの香りに鼻をくすぐられながら、今はもう自分の印をつけることすら叶わない白い首筋に頬を寄せるとピクリと小さく肩を震わせた。

その反応に理性という名の箍(たが)が外れないよう堪えながら、ただただ黙って少し腕に力を込めて抱き締めた。



「勇人なら、絶対に来るから」

抱き締めながら言った言葉に「そうかなぁ……」と相変わらず自信無さげに反応する。

「来るよ。つーか、来させる……」

「え?」

独り言のような小さな呟きは葵には聞こえなかったようで聞き返されたけど。

「いや。こっちの話」と誤魔化した。

「葵はデモに集中しとけ。今日なんて白鳥がアヒルに危うくなりかけてたぞ?」

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