彼女は予想の斜め上を行く
「葵……」

名前を呼び、互いの顔の距離を縮めて行く。

「えっ…ちょっ…長野君?」

ヘタレでビビりな俺にしては珍しく少し強引に。

焦る葵のことは、お構い無し。

10cm…9cm…。

「長野君!」

5cm…4cm…3cm…2cm…。

―――そして、1cm。

唇と唇が触れようとした瞬間だった。

スパコーンッッ!!

ギャグ漫画張りの軽快な音。

後頭部に走る衝撃。

「……………ッッ!!」

その痛みに声にならない声をあげ後頭部を抑えて、その場にうずくまる。

「長野君?大丈夫?」

涙目で見上げると、心配しつつも少し呆れたような表情で俺を見詰める葵と……。

「てめぇはアホかっ!」

軽快な音と衝撃の原因である完璧な男。

中島裕行が、俺を叩き付けたと推測される丸めたパンフレットを手にして、冷たい目と仁王立ちで俺を見下ろす。
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