彼女は予想の斜め上を行く


「あっ。ここだから」

走り出して十分弱。

新しい外観のアパートの前に、車を停車させた。

部屋に上がってく?なんて言葉はもちろんない。

「今日は、ありがとう。長野君に励まされて、元気出た♪」

帰り際に可愛い笑顔でそれを言うのは、反則じゃないか?

「送ってもらえて、助かった♪今度、お礼させて?」

「お礼だったら……」

勇気を振り絞って、行動を起こす。



ガシッ

車のドアに手をかけ、開けようとする金本さんの手を今度は俺が掴んだ。

「長野…君…?」

金本さんは、不思議そうに俺を見る。

上目遣いのような表情に、少し心臓が波打った。

「お礼だったら、今度二人で出掛けたいです」

「無理……」

困った表情を浮かべながら、即答。
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