彼女は予想の斜め上を行く
……でも、待て。

そもそも葵がこの男に家まで送らせなければ、よかった話ではないのか?

葵と勇人が、手を繋ぐことも。

葵と勇人が、出掛けることも。

俺が、嫉妬でイライラして酒を飲むことも。

キャラ崩壊することも。

キャバ嬢を口説くことも。

葵が勇人の誘いを断れば、全てはなかったはず。

大体ただの後輩である勇人に、彼氏の俺が二人の関係を隠してヤキモキしている意味がわからない。

そう考えると、なんだかどうでもよくなって来た。

「あっ。今のは、彼女の家~」



タクシーが葵の家の周辺に来ると、勇人はキョロキョロしだした。

やっぱり覚えているんだ。

「お客さん、着きましたよ」

家の前に着くと、勇人は硬直していた。

混乱して、何か言いたいのに言えないって顔をしている。

一応それなりに信頼して、惚れた女のことを話した相手。

そいつが、その女のアパートを《彼女の家》だと言う。

混乱して当然。

そんな勇人に、追い討ちを掛ける。
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