槇名さんの真実
「てことは、やっぱナシか」
そう告げると、イオは数回小刻みに頭を縦に振った。口先を少し尖がらせて。
「正直、がんばって盛り上げようとしてくれてんの分かるし、話しも面白いんだけど...」
言い淀みながら、フェードアウト。こればっかりはなぁ、仕方ないしね。
彼女なりに考えた結果だ。これまでの彼の行動も含めて、ちゃんと男として見ようとしたんだろう。
だが、それでも無理なものは無理だ。そう簡単に人を好きになれたら苦労しない。
「で、ヤツは何か言ってた?」
うん、と小さく答えたイオは続けた。
「付き合って欲しいって。でも、断った」
それでいいんだと思う。私はこう見えて、イオの恋愛相談にずっと付き合ってきた。高校で初めて知り合ってからずっと。
だから、余計に分かってしまう。イオはまだ元彼のことを吹っ切れてないのだ。嫌いになってお互い別れたわけじゃない。それが一番苦く、心に染みるのだ。
「ダイジョウブ。橋本、そんな軟じゃないから」
利用するぐらいなら、はっきり断ったイオの方がよっぽど橋本のためだ。
橋本だって、そんな正直な伊織をきっと好きになったはずだ。
元気がないイオが、彼女らしくなくて、その空気を吹き飛ばすためにさっきの仕返しとばかりに私は力一杯スクールバックをイオの背中目掛けてヒットさせた――。