グレーの秘密

そんな中であの安東耀子が現れる、という偶然に縋るように、気付けば声を掛けていた。

「安東さん、だよね。Ｐ大の」
「ん？君は・・・」
「ごめん、俺もＰ大法なんだ。それだけ。いきなりごめん」
「そうなんだ。良かったよー、誰だったかすっごい考えちゃった。」
この場所に似つかわしくない、屈託の無い笑い声だった。
「どこか悪いの？」
我ながら無粋な質問だったと思う。あまりの彼女と病院という場違い感に、風邪、ましてやそれ以上には見えなかったのだ。
「花粉症だよ。薬無いと歩けなくて。ほとほと現代人だよ、私も。あはは」
「きついらしいね。俺はまだ大丈夫だけど。一度かかったら年々酷くなるみたいだから」
「ほんと、困っちゃうよ。部活、屋内にしてくんないかなあ。」
彼女が陸上部であることも知っていたが、気味悪がられそうなので自分から言うことは憚られた。